ストリップ劇場と風営法

1.はじめに

 前回までは、ストリップ・ショーと公然わいせつ罪の関係について説明を加えてきた。今回からは、新たに、ストリップ劇場と最も関係の深い法律である「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」、略して「風営法*1について、検討を加えていきたい。

 風営法とは、その第1条*2が規定しているとおり、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するための法律である。この目的を達成するため、風営法は、キャバレー、接待をする料理店、麻雀店、パチンコ屋等の風俗営業や、ファッションヘルス、ラブホテル、アダルトショップ、さらにストリップ劇場等の性風俗関連特殊営業」について、営業が可能な時間や場所等の様々な規制を設けている。

 なお、「風俗」と聞くと、性を取り扱う「フーゾク」を連想する方が多いかもしれないが、その本来の語義は、地域社会固有の生活の上での仕方やしきたりを指すものである。戦前の「風俗警察」は、まさに地域ごとの生活慣習を広範囲にわたりコントロールするものであり、例えば、映画や演劇、広告などの営業も取締対象に含まれていた。

 その後、戦後の民主化の過程で、風俗警察の権限の及ぶ範囲が、飲酒・賭博・売買春に関するものに限定される一方、現在に至るまでに、性に関する娯楽・サービスが著しく肥大化したことで、日常用語的には「風俗」といえば「フーゾク」が連想されるようになったと考えられる*3。その用語法に異を唱える必要はないが、風営法上、いわゆる「フーゾク」店は、単なる風俗営業」ではなく、「性風俗関連特殊営業」という特別なジャンルにカテゴライズされている点には、注意をしておく必要がある。

 以下では、「性風俗関連特殊営業」に分類されるストリップ劇場が、風営法においていかなる規制を受けているのかを概観する。

2.「許可」制ではなく「届出」制

 以上で見たように、ストリップ劇場は「性風俗関連特殊営業」としての規制を受けている。より正確には、性風俗関連特殊営業の中の「店舗型性風俗特殊営業」に当たる。風営法2条を見てみよう。

(用語の定義)

第2条 1~4 (略)

5 この法律において「性風俗関連特殊営業」とは、店舗型性風俗特殊営業、無店舗型性風俗特殊営業、映像送信型性風俗特殊営業、店舗型電話異性紹介営業及び無店舗型電話異性紹介営業をいう。

6 この法律において「店舗型性風俗特殊営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。

一 浴場業(公衆浴場法(昭和二十三年法律第百三十九号)第一条第一項に規定する公衆浴場を業として経営することをいう。)の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業

二 個室を設け、当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業(前号に該当する営業を除く。)

三 専ら、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行その他の善良の風俗又は少年の健全な育成に与える影響が著しい興行の用に供する興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定するものをいう。)として政令で定めるもの*4を経営する営業

四 専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する政令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業

五 店舗を設けて、専ら、性的好奇心をそそる写真、ビデオテープその他の物品で政令で定めるものを販売し、又は貸し付ける営業

六 前各号に掲げるもののほか、店舗を設けて営む性風俗に関する営業で、善良の風俗、清浄な風俗環境又は少年の健全な育成に与える影響が著しい営業として政令で定めるもの  

7~13 (略)

  第5項を読むと、「店舗型性風俗特殊営業」が「性風俗関連特殊営業」の一部として規定されていることが分かる。ちなみに「無店舗型」というのは、要するにデリヘル(デリバリーヘルス)のことである。

 第6項には「店舗型性風俗特殊営業」に当たる営業がリストアップされている。一見すると複雑そうだが、簡単に言えば、ソープランド等(1号)、店舗型ファッションヘルス等(2号)、ストリップ劇場等(3号)、モーテル・ラブホテル等(4号)、アダルトショップ等(5号)、そのほか政令で定める営業(6号)となる。

 この「店舗型性風俗特殊営業」を営もうとする場合、公安委員会に「届出」書を提出する必要がある(27条1項)。もしも、届出をせずに営業した場合には、「無届営業」罪となり「6月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金(又は併科)」の刑が科せられる可能性がある(52条4号)。

 ここで興味深いのは、性風俗店の営業については、「許可」制ではなく「届出」制が採られている点である。これに対して、キャバレー、接待をする料理店、麻雀店、パチンコ屋等の「風俗営業」については、公安委員会の「許可を受けなければならない」と規定され、許可制が採られている(3条1項)。一見すると、より厳しい規制が必要な性風俗店の方こそ、「許可」を求めるべきであるようにも思えるが、この違いはどこから生まれるのだろうか。

 この点について、当時の警察庁刑事局保安部長であった鈴木良一は次のように答弁している*5

 まず、「風俗営業」とは、「本質的に国民に社交と憩いの場を与えるもので、健全な娯楽の機会を与えるものである」。しかし、営業の方法や内容によって「業務が不適正に行われる場合には、それは風俗上の問題を引き起こす可能性がある」ため、問題が起きないように規制を加え、業務の健全化を図る必要があるという。

 これに対して、性風俗関連特殊営業は「性を売り物にする」ものである。これらの営業は、そもそも不健全であるため「営業の健全化にはなじまない」。したがって、地域禁止規制というものを厳しくかけ」るし、「違反があれば厳しい行政処分もかける」。性風俗関連特殊営業については、「そういうふうに監視していくということが大事」であって、「決してそれを公認するというようなものではない」。

 このような区分に応じて、風俗営業には「許可」が必要とされるのに対し、性風俗関連特殊営業は、「許可」になじまないものであるとの立場から、「届出」のみが義務付けられたというのである。

 この答弁自体には様々な疑問が湧くところであるが、いずれにせよ明らかなのは、「届出」制だからといって、規制が甘いというわけではなく、むしろ事態はその真逆だということである。この答弁によれば、性風俗店は本質的に「悪」なのである。なければそれに越したことはないが、存在してしまう以上は、厳しく規制と監視を及ぼすべき営業こそが、性風俗関連特殊営業であり、ストリップ劇場なのである。

3.人的・時間的・場所的規制

 それでは、具体的に、「店舗型性風俗特殊営業」としてのストリップ劇場は、風営法でいかなる規制を受けているのだろうか。

 風営法の規制は、大きく「人・時間・場所」の3本柱からなる。その基本的なコンセプトは、善良な風俗環境に悪影響を及ぼす可能性のある営業を、空間的に隔絶しておくことにある。この「囲い込み」方式のルーツは、江戸時代の遊郭システムにまで遡るとの指摘がなされている*6。社会空間が悪所とそうでない所に区別され、大人の男だけが、特別に設けられた空間で「くろうとの女性」と接触する。これが、性にかかわる風俗営業の、江戸以来の基本的な「かたち」である。

 もう少し風営法における規制内容を具体的に見よう。まず、「人」的規制として、周知のように、ストリップ劇場は「18禁」であり、18歳未満の者を劇場に客として立ち入らせることは禁止されている。もちろん、18歳未満の者を客に接する業務に従事させることも許されない。ちなみに、18歳になっていれば、高校生であっても、観客として入場することに法律上の問題はないが、見分けがつきにくい等の理由から入場を断ることが多いようである。

 なお、営業者に関する規制として、「風俗営業」は、一定の前科者や薬物中毒者等がやろうとしても、その許可が下りない仕組みになっている(4条1項)のに対して、「性風俗関連特殊営業」については、そもそも「許可」が不要であることもあり、このような規制はない。ただし、営業者が、一定の罪(例えば、公然わいせつ罪)を犯した場合には、営業停止を食らう可能性があるため、事実上、犯罪を犯さないことが営業を続けるための条件と言うことはできるだろう*7

 続いて、「時間」的規制として、ストリップ劇場は「深夜」、すなわち、「午前0時から午前6時」までの間、営業が禁止されている(13条1項*8)。皆さんの中には、物足りず朝まで観劇したいと思う方も多いだろうが、劇場の多くが午前0時までに閉まってしまうのは、風営法の規制がきちんと守られている証拠なのである。

 最後に、一番厄介なのは「場所」的規制である。これについては、今後の記事の中で改めて詳細に取り上げるが、一言でいえば「エグい」くらい厳しいものである。風営法28条1項は、営業禁止エリアとして、学校、図書館、児童福祉施設等の「保全対象施設」の周囲200メートルの区域を定めている。したがって、周囲200メートル以内にこれらの施設がある場所では、ストリップ劇場の営業を始めることはできない。

 これだけでも結構厳しいのだが、さらに、都道府県の条例で、この「保全対象施設」をいくらでも追加できるうえに、必要があるときは、地域を定めて、その地域全体での営業を禁止することもできる(28条2項)という「完全無欠の」オプション付きである。これが、「ストリップ劇場の新設は事実上不可能」といわれる所以である。

4.おわりに

 今回は、ストリップ劇場をめぐる風営法の規制の内容について概観を加えた。特に「場所的」規制については、今後の記事でさらにその問題を具体的に検討したい。

 鈴木良一の答弁に見られたように、風営法において、「性風俗関連特殊営業」としてのストリップ劇場は、本質的にいかがわしく不健全なものであり、なければないに越したことはないような「悪」である。社会が漂白されていくに連れて、真っ先に槍玉に挙げられることは、ある種当然の流れだろう。しかし、性風俗は本当に本質的に「悪」なのだろうか。上で見たように、「性風俗関連特殊営業」にも様々な業種が規定されているが、それらは本当に一括りにして良いものなのだろうか。社会が漂白され尽くす前に、慎重に検討してみる必要があるだろう。

 また、遊郭システムにルーツを持つ「囲い込み」方式の限界についても考える必要がある。インターネット通信の発達した現代において、性産業の中心は、「店舗型」ではなく「無店舗型」に完全に移行している。ここでは「囲い込み」方式はもはや通用しない*9風営法はこれまで幾度となく改正を重ねることで、この事態に対応してきたが、「増築に増築を重ねた老舗旅館のような風営法*10には、いずれガタがくるだろう。その意味でも、現代社会は、風俗と法のあり方について、抜本的な見直しを加える時期に来ているのかもしれない。

*1:その前身は、戦後の混乱期に規制の空白に対処するため、1948年に制定された「風俗営業取締法」である。1984年に「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」に改正されて以降は、「風適法」との略称が多く用いられたが、現在では再び「風営法」と称するのが主流となっているため、本記事でもこれに従う。なお、本法の制定及び改正の経緯については、風俗問題研究会『風営適正化法ハンドブック〔第4版〕』(2016年)2頁以下が詳しい。

*2:この目的規定は、少年の健全育成に主眼を置いた1984年の改正で新たに設けられたものである。1984年の改正については、澤登俊雄「風俗営業法改正の経緯と新風営法の性格」法律時報57巻7号(1985年)8頁以下参照。

*3:「風俗」と「フーゾク」の意味あいについて、永井良和『定本 風俗営業取締り』(2015年)22頁以下参照。

*4:この法律の委任を受けて、同法施行令2条は、「ヌードスタジオその他個室を設け、当該個室において、当該個室に在室する客に、その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態又はその映像を見せる興行の用に供する興行場(1号)」、「のぞき劇場その他個室を設け、当該個室の隣室又はこれに類する施設において、当該個室に在室する客に、その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態又はその映像を見せる興行の用に供する興行場(2号)」、「ストリップ劇場その他客席及び舞台を設け、当該舞台において、客に、その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態又はその姿態及びその映像を見せる興行の用に供する興行場(3号)」を挙げている。

*5:「第101回国会参議院地方行政委員会会議録」第18号。

*6:永井・前掲注(3)30頁以下参照。

*7:熊田陽子「現代日本における性風俗店営業の法的位置づけ」人間文化創成科学論叢13巻(2010年)313頁は、営業停止の根拠規定を、営業者の立場から読み替え、解釈すると、「~の罪を犯してはならない」という禁止の言説になると指摘する。

*8:ただし、特別の行事の日や特別の地域について、都道府県が条例で特別に定めを置けば、「深夜」の時間帯でも営業を営むことができる。反対に、条例の定めにより、「深夜」以外の時間帯について営業を制限することもできる(13条2項)。

*9:永井・前掲注(3)219頁は、さらに、子どもを守る砦であったはずの家庭という「聖域」が性風俗の「現場」に転化する可能性の重要性についても指摘する。

*10:神庭亮介「ルポ風営法改正」(2015年)267頁。