ストリップ劇場と場所的規制

1.はじめに

 前回の記事では、「性風俗関連特殊営業」に分類されるストリップ劇場が風営法でいかなる規制を受けているかを概観した。今回は、各種の規制の中でも、「場所」に関する規制について詳しく紹介を加えたい。

 ストリップ劇場の新設が事実上不可能とされる大きな原因が、この「場所的規制」にあることは周知の事実である。現在の法律上、ストリップの営業を新規に行うことができるエリアは日本にほぼ存在しないといわれている。この状況を打破しない限り、ストリップ劇場の数が右肩下がりとなっている現状を食い止めることは絶望的といえよう。その方策を検討するための前提として、まずは「場所的規制」の仕組みと現状について正しく認識しておくことが必要である。

 ストリップ劇場の場所的規制は、大きく2つに整理することができる。1つは、都市計画法建築基準法に定められた用途地域における建築制限であり、もう1つは、風営法に定められた営業禁止区域の規制である。ストリップ劇場の新規開業に際して特に高いハードルとなるのは後者の規制であるが、以下ではそれぞれの内容について詳しく見ていくことにする。

2.用途地域における建築制限

 都市計画法では、都市の利便の促進のために、都市を住宅地、工場地、商業地などいくつかの種類に区分し、土地の利用の仕方に制限を設けている。要するに、「似たような建物を同じエリアに集める」ことで、都市環境を守るとともに、生活の利便性を確保しようというルールである。こうしたルールは用途地域(ようとちいき)」規制と呼ばれている*1

 もともと、この用途地域の規制は、住宅と工場の分離、あるいは工場の適正配置などを図る程度のものであった。しかし、戦後になると、この規制が風俗営業を特定のエリアから排除するという、いわば「社会空間の道徳的な色分け」*2のための格好の道具として、積極的に利用されるようになる。

 具体的にいうと、ストリップ劇場を初めとする「性風俗関連特殊営業」のための建物は、「商業地域」でしか建築が認められない(建築基準法48条参照)。新宿、池袋、渋谷駅周辺等の繁華街となっているようなエリアがこれに当たるが、こちらの東京都における用途地域マップを確認すれば分かるように、この「商業地域」に指定されているエリアは都市部でも限られている。これが、ストリップ劇場を新設するための第一の関門である。

 もっとも、こうした規制が及ぶのは、都市計画に基づき用途地域が指定されたエリア内だけである。したがって、都市計画区域内であっても、用途の指定のない区域(「白地地域」と呼ばれる)や、都市計画区域外などでは、どのような用途で建築をしようが基本的に自由である*3。その意味で、以上の規制は、大雑把に言えば「田舎には関係のない」話といえる。

3.風営法における営業禁止区域

 以上の規制をクリアし、ストリップ劇場の「建築」が認められたとしても、その「営業」が認められるかどうかは、また別の問題である。ここで第二の関門となるのが、風営法における営業禁止区域の規制である。

(1)200メートル規制

 まず、風営法28条1項は、学校、図書館、児童福祉施設等の「保全対象施設」*4の周囲200メートルの区域内において、ストリップ劇場を初めとする店舗型性風俗特殊営業を営んではならないと規定している。いわゆる「200メートル規制」と呼ばれるものである。ここでいう「児童福祉施設」には、児童養護施設や児童遊園*5のほか、保育所等も含まれる(児童福祉法7条)。周囲200メートル以内に、学校も図書館も保育所も存在しない場所を探すのは、それだけでも一苦労であろう。

 さらに厄介なことに、性風俗店の新規出店を阻むために、行政側が強引な作戦に打って出ることがある。それは、性風俗店を出店してほしくないエリアに、これらの施設を建ててしまうという、驚きの奇策である。

 この奇策が打たれた例の一つが、新宿区にある歌舞伎町である。日本最大の風俗街となった歌舞伎町の状態について、新宿区はなんとか新規出店を抑えられないかと悩んでいた。しかし、周囲に学校も図書館もない。そこで、新宿区は、歌舞伎町のど真ん中に図書館をつくって、周囲200メートルを新規出店できない区域にしてしまうという計画を立てたのである。まさに、「ないならば、作ってしまえ、ホゴシセツ」である。

 もちろん、新たに土地建物を確保するのは困難であった。そこで、新宿区は、歌舞伎町一丁目にある新宿区役所の建物内に、別の場所*6にあった区立中央図書館の「分室」を設けるというアイデアを編み出し、実行したのである。この区役所内「分室」は、現在でも存在しており、性風俗店の新規出店を阻む役割を果たしている。DX歌舞伎町や新宿ニューアートのすぐ近く(ミスタードーナツの向かい)にあるので、時間がある際には、訪れてみるのも良いだろう。

 こうした行政のやり方がフェアかと問われると、非常に疑わしいように思われる。そもそも、営業禁止区域を設けたのは、保全対象施設の近辺の清浄な環境を守るためであったはずなのに、わざわざ「不清浄」な場所に図書館を作るというのは、全く本末転倒な話である。実は過去には、こうした行政のやり方が裁判でも争われており、これを違法と認めた最高裁判例も存在している*7。この判例については、本ブログでもいずれ改めて詳しく紹介したいと思う。

(2)条例によるオプション

 以上の規制だけでも十分厳しいのだが、風営法はさらに、都道府県条例による完全無欠の「オプション」を認めている。

 まず、都道府県条例は、以上で挙げた施設以外にも、必要に応じて「保全対象施設」を追加することができる。例えば、東京都の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」(以下、「風営法施行条例」という。)では、「病院及び診療所」が、「保全対象施設」として追加されている(同9条)。したがって、東京都内では、「病院及び診療所」の周囲200メートル以内でも、性風俗店の新規出店はできないことになる。実際に、病院及び診療所の近くに性風俗店があるとどういう悪影響があるかはよく分からない(入院患者が性風俗店でハッスルしてしまうのだろうか)が、とにかく東京都の条例ではそういうことになっている。

 さらに、都道府県条例は、必要があれば、地域を定めて、その地域での営業を禁止することもできる(風営法28条2項*8)。はっきり言って、これが一番「エグい」規制である。極端な話、県全体を禁止区域として条例で定めることで、いわば穴のない「完全無欠」の営業禁止だって実現できてしまうわけである。

 そして、その極端なことが一部の県においてはすでに生じている。例えば、兵庫県風営法施行条例には次のような規定が存在している。

第9条 法〔筆者注─風営法のこと〕第2条第6項に規定する店舗型性風俗特殊営業のうち、次の各号に掲げる営業は、それぞれ当該各号に定める地域においては、これを営んではならない。

一 法第2条第6項第1号から第3号までの営業、同項第4号の営業(個室に自動車の車庫が個々に接続する施設であって公安委員会規則で定めるものを利用させる営業に限る。)及び同項第6号の営業 県内全域 

二 (略)

  以上の規定によれば、店舗型性風俗特殊営業のうち、5号営業(アダルトショップ等)以外のほぼすべての営業は県内全域で営むことができないことになる。残念ながら、ストリップ劇場は、3号営業である。本記事でここまで長々と規制内容を細かく説明してきたのが馬鹿らしくなるような、「完全排除」の体制がここでは敷かれているのである。

 もちろん、全ての都道府県の条例が、ストリップ劇場の営業を「全域」で禁止しているわけではない*9。しかし、それでもかなり広い範囲が、営業禁止地域として定められているというのが実情である*10。ストリップ劇場の新規開業に際しては、このほとんど完全無欠のオプションこそが、最大の難関であると評してよいであろう。

4.おわりに─突破のための糸口?─

 以上で見たように、ストリップ劇場を初めとする性風俗店の場所的規制は「エグい」くらい厳しいものである。第一の関門として、ストリップ劇場は「商業地域」か、都市計画が定められていないような「ど田舎」にしか建築することができない。続く第二の関門として、ストリップ劇場は、学校や図書館等の「保全対象施設」の周囲200メートル以内では営業ができない。さらに、都道府県の条例では、必要に応じて、この「保全対象施設」を追加できるうえ、地域を定めて、その地域での営業を禁止することもできる。

 記事の中で述べたように、この条例によるオプションこそが最大の難関である。兵庫県条例のような、「県内全域」での禁止がまかり通ってしまうのであれば、もはや完全にお手上げと言わざるを得ないだろう。

 しかし、実をいうと、風営法も条例によるオプションを全く無条件に認めているわけではない。上にも書いたように、これらのオプションは、各都道府県の実情に鑑みて「必要に応じて」設定することが許されているのである。それゆえ、特に必要もないのに、条例で過激な規制を行うことは、風営法の趣旨に反するものとして、無効となる可能性がある。

 さらに、不必要に過剰な規制を行うことは、憲法の保障する表現の自由(同21条1項)や営業の自由(同22条)を侵害するものとして、やはり無効と評価される可能性がある。現に、最近では、風俗案内所の開業に厳しい場所的規制を設ける条例が、憲法に反するものとして争われ、その主張の一部を認める裁判所の判決も現れるに至っている*11。こうした判決についても、今後改めて詳しく取り上げる予定である。

 我々には、好きな場所で好きなことを表現したり、それを職業にしたり、あるいは受け手として楽しむ「自由」がある。これをむやみに妨害することは、国家権力といえども許されないというのが、近代社会における人権保障の基本的な考え方にほかならない。したがって、ここでは、ストリップ劇場を国家権力により社会空間から完全に締め出すことの必要性と合理性が厳しく問われ直されなければならないであろう。それが、突破のための糸口を見出すための第一歩となるように思われる。

*1:用途規制の概要については、安本典夫『都市法概説〔第2版〕』(法律文化社、2013年)57頁以下、坂和章平『まちづくりの法律がわかる本』(学芸出版社、2017年)92頁以下、都市計画法制研究会編著『よくわかる都市計画法〔第二次改訂版〕』(ぎょうせい、2018年)36頁以下等を参照。

*2:永井良和『定本 風俗営業取締り』(2015年)147頁。

*3:ただし、バブル期に、規制の緩い白地地域や都市計画区域外でリゾートマンションをはじめとする大規模な乱開発が起きたことなどを受け、現在ではこれらの地域でも一定の開発・建築規制がなされている点に注意が必要である。白地地域・都市計画区域外における規制については、和多治「白地地域・都市計画区域外における小規模開発のコントロールに関する研究」第33回日本都市計画学会学術研究論文集(1998年)517頁以下を参照。

*4:平成28年風営法改正により、保護対象施設は「保全対象施設」と呼び方が変更された。

*5:児童遊園とは、児童福祉法第40条に規定されている児童厚生施設の一つで、児童の健康増進や、情緒を豊かにすることを目的とし、児童に安全かつ健全な遊び場所を提供する屋外型の施設である。単なる公園とは異なり、児童の遊びを指導する者(児童厚生員)が子供の指導にあたることとなっているが、外観はほとんど公園と変わらない。渋谷道頓堀劇場のすぐ近くにも「百軒店児童遊園地」という小さな児童遊園があり、百軒店・道玄坂エリアにおける性風俗店の新規出店を阻む役割を果たしている。

*6:高田馬場に近い、下落合一丁目である。なお、余談であるが、この場所は私の母の実家のすぐ近所であり、私も幼少時代にこの図書館にはよく訪れた。ちなみにこの図書館自体はその後、大久保に移転している。

*7:個室付き浴場(ソープランド)の新規出店を阻むために、知事が児童遊園施設の設置を許可したという、「余目町個室付浴場事件」の最高裁判決である(最判昭和53年6月16日刑集32巻4号605頁 )。

*8:同項は、「都道府県は、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要があるときは、条例により、地域を定めて、店舗型性風俗特殊営業を営むことを禁止することができる」と定める。

*9:他にストリップ劇場を県内全域で禁止しているのは、滋賀県滋賀県風営法施行条例10条1号)及び奈良県奈良県風営法施行条例10条1号)である。

*10:例えば、東京都、宮城県山梨県、石川県、長野県、岐阜県和歌山県大阪府、福岡県、宮崎県、佐賀県沖縄県の12都府県では、ストリップ劇場の営業を商業地域以外の全域で禁止している。なお、全都道府県の営業禁止区域の詳細については、後日本ブログに資料としてアップする予定である。

*11:京都地判平成26年2月25日判時2275号27頁。ただし、この判断は、控訴審判決(大阪高平成27年2月20日判時2275号18頁)及び最高裁判決(最判平成28年12月15日集民254号81頁)によって覆されている。