ストリップ劇場と場所的規制

1.はじめに

 前回の記事では、「性風俗関連特殊営業」に分類されるストリップ劇場が風営法でいかなる規制を受けているかを概観した。今回は、各種の規制の中でも、「場所」に関する規制について詳しく紹介を加えたい。

 ストリップ劇場の新設が事実上不可能とされる大きな原因が、この「場所的規制」にあることは周知の事実である。現在の法律上、ストリップの営業を新規に行うことができるエリアは日本にほぼ存在しないといわれている。この状況を打破しない限り、ストリップ劇場の数が右肩下がりとなっている現状を食い止めることは絶望的といえよう。その方策を検討するための前提として、まずは「場所的規制」の仕組みと現状について正しく認識しておくことが必要である。

 ストリップ劇場の場所的規制は、大きく2つに整理することができる。1つは、都市計画法建築基準法に定められた用途地域における建築制限であり、もう1つは、風営法に定められた営業禁止区域の規制である。ストリップ劇場の新規開業に際して特に高いハードルとなるのは後者の規制であるが、以下ではそれぞれの内容について詳しく見ていくことにする。

2.用途地域における建築制限

 都市計画法では、都市の利便の促進のために、都市を住宅地、工場地、商業地などいくつかの種類に区分し、土地の利用の仕方に制限を設けている。要するに、「似たような建物を同じエリアに集める」ことで、都市環境を守るとともに、生活の利便性を確保しようというルールである。こうしたルールは用途地域(ようとちいき)」規制と呼ばれている*1

 もともと、この用途地域の規制は、住宅と工場の分離、あるいは工場の適正配置などを図る程度のものであった。しかし、戦後になると、この規制が風俗営業を特定のエリアから排除するという、いわば「社会空間の道徳的な色分け」*2のための格好の道具として、積極的に利用されるようになる。

 具体的にいうと、ストリップ劇場を初めとする「性風俗関連特殊営業」のための建物は、「商業地域」でしか建築が認められない(建築基準法48条参照)。新宿、池袋、渋谷駅周辺等の繁華街となっているようなエリアがこれに当たるが、こちらの東京都における用途地域マップを確認すれば分かるように、この「商業地域」に指定されているエリアは都市部でも限られている。これが、ストリップ劇場を新設するための第一の関門である。

 もっとも、こうした規制が及ぶのは、都市計画に基づき用途地域が指定されたエリア内だけである。したがって、都市計画区域内であっても、用途の指定のない区域(「白地地域」と呼ばれる)や、都市計画区域外などでは、どのような用途で建築をしようが基本的に自由である*3。その意味で、以上の規制は、大雑把に言えば「田舎には関係のない」話といえる。

3.風営法における営業禁止区域

 以上の規制をクリアし、ストリップ劇場の「建築」が認められたとしても、その「営業」が認められるかどうかは、また別の問題である。ここで第二の関門となるのが、風営法における営業禁止区域の規制である。

(1)200メートル規制

 まず、風営法28条1項は、学校、図書館、児童福祉施設等の「保全対象施設」*4の周囲200メートルの区域内において、ストリップ劇場を初めとする店舗型性風俗特殊営業を営んではならないと規定している。いわゆる「200メートル規制」と呼ばれるものである。ここでいう「児童福祉施設」には、児童養護施設や児童遊園*5のほか、保育所等も含まれる(児童福祉法7条)。周囲200メートル以内に、学校も図書館も保育所も存在しない場所を探すのは、それだけでも一苦労であろう。

 さらに厄介なことに、性風俗店の新規出店を阻むために、行政側が強引な作戦に打って出ることがある。それは、性風俗店を出店してほしくないエリアに、これらの施設を建ててしまうという、驚きの奇策である。

 この奇策が打たれた例の一つが、新宿区にある歌舞伎町である。日本最大の風俗街となった歌舞伎町の状態について、新宿区はなんとか新規出店を抑えられないかと悩んでいた。しかし、周囲に学校も図書館もない。そこで、新宿区は、歌舞伎町のど真ん中に図書館をつくって、周囲200メートルを新規出店できない区域にしてしまうという計画を立てたのである。まさに、「ないならば、作ってしまえ、ホゴシセツ」である。

 もちろん、新たに土地建物を確保するのは困難であった。そこで、新宿区は、歌舞伎町一丁目にある新宿区役所の建物内に、別の場所*6にあった区立中央図書館の「分室」を設けるというアイデアを編み出し、実行したのである。この区役所内「分室」は、現在でも存在しており、性風俗店の新規出店を阻む役割を果たしている。DX歌舞伎町や新宿ニューアートのすぐ近く(ミスタードーナツの向かい)にあるので、時間がある際には、訪れてみるのも良いだろう。

 こうした行政のやり方がフェアかと問われると、非常に疑わしいように思われる。そもそも、営業禁止区域を設けたのは、保全対象施設の近辺の清浄な環境を守るためであったはずなのに、わざわざ「不清浄」な場所に図書館を作るというのは、全く本末転倒な話である。実は過去には、こうした行政のやり方が裁判でも争われており、これを違法と認めた最高裁判例も存在している*7。この判例については、本ブログでもいずれ改めて詳しく紹介したいと思う。

(2)条例によるオプション

 以上の規制だけでも十分厳しいのだが、風営法はさらに、都道府県条例による完全無欠の「オプション」を認めている。

 まず、都道府県条例は、以上で挙げた施設以外にも、必要に応じて「保全対象施設」を追加することができる。例えば、東京都の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」(以下、「風営法施行条例」という。)では、「病院及び診療所」が、「保全対象施設」として追加されている(同9条)。したがって、東京都内では、「病院及び診療所」の周囲200メートル以内でも、性風俗店の新規出店はできないことになる。実際に、病院及び診療所の近くに性風俗店があるとどういう悪影響があるかはよく分からない(入院患者が性風俗店でハッスルしてしまうのだろうか)が、とにかく東京都の条例ではそういうことになっている。

 さらに、都道府県条例は、必要があれば、地域を定めて、その地域での営業を禁止することもできる(風営法28条2項*8)。はっきり言って、これが一番「エグい」規制である。極端な話、県全体を禁止区域として条例で定めることで、いわば穴のない「完全無欠」の営業禁止だって実現できてしまうわけである。

 そして、その極端なことが一部の県においてはすでに生じている。例えば、兵庫県風営法施行条例には次のような規定が存在している。

第9条 法〔筆者注─風営法のこと〕第2条第6項に規定する店舗型性風俗特殊営業のうち、次の各号に掲げる営業は、それぞれ当該各号に定める地域においては、これを営んではならない。

一 法第2条第6項第1号から第3号までの営業、同項第4号の営業(個室に自動車の車庫が個々に接続する施設であって公安委員会規則で定めるものを利用させる営業に限る。)及び同項第6号の営業 県内全域 

二 (略)

  以上の規定によれば、店舗型性風俗特殊営業のうち、5号営業(アダルトショップ等)以外のほぼすべての営業は県内全域で営むことができないことになる。残念ながら、ストリップ劇場は、3号営業である。本記事でここまで長々と規制内容を細かく説明してきたのが馬鹿らしくなるような、「完全排除」の体制がここでは敷かれているのである。

 もちろん、全ての都道府県の条例が、ストリップ劇場の営業を「全域」で禁止しているわけではない*9。しかし、それでもかなり広い範囲が、営業禁止地域として定められているというのが実情である*10。ストリップ劇場の新規開業に際しては、このほとんど完全無欠のオプションこそが、最大の難関であると評してよいであろう。

4.おわりに─突破のための糸口?─

 以上で見たように、ストリップ劇場を初めとする性風俗店の場所的規制は「エグい」くらい厳しいものである。第一の関門として、ストリップ劇場は「商業地域」か、都市計画が定められていないような「ど田舎」にしか建築することができない。続く第二の関門として、ストリップ劇場は、学校や図書館等の「保全対象施設」の周囲200メートル以内では営業ができない。さらに、都道府県の条例では、必要に応じて、この「保全対象施設」を追加できるうえ、地域を定めて、その地域での営業を禁止することもできる。

 記事の中で述べたように、この条例によるオプションこそが最大の難関である。兵庫県条例のような、「県内全域」での禁止がまかり通ってしまうのであれば、もはや完全にお手上げと言わざるを得ないだろう。

 しかし、実をいうと、風営法も条例によるオプションを全く無条件に認めているわけではない。上にも書いたように、これらのオプションは、各都道府県の実情に鑑みて「必要に応じて」設定することが許されているのである。それゆえ、特に必要もないのに、条例で過激な規制を行うことは、風営法の趣旨に反するものとして、無効となる可能性がある。

 さらに、不必要に過剰な規制を行うことは、憲法の保障する表現の自由(同21条1項)や営業の自由(同22条)を侵害するものとして、やはり無効と評価される可能性がある。現に、最近では、風俗案内所の開業に厳しい場所的規制を設ける条例が、憲法に反するものとして争われ、その主張の一部を認める裁判所の判決も現れるに至っている*11。こうした判決についても、今後改めて詳しく取り上げる予定である。

 我々には、好きな場所で好きなことを表現したり、それを職業にしたり、あるいは受け手として楽しむ「自由」がある。これをむやみに妨害することは、国家権力といえども許されないというのが、近代社会における人権保障の基本的な考え方にほかならない。したがって、ここでは、ストリップ劇場を国家権力により社会空間から完全に締め出すことの必要性と合理性が厳しく問われ直されなければならないであろう。それが、突破のための糸口を見出すための第一歩となるように思われる。

*1:用途規制の概要については、安本典夫『都市法概説〔第2版〕』(法律文化社、2013年)57頁以下、坂和章平『まちづくりの法律がわかる本』(学芸出版社、2017年)92頁以下、都市計画法制研究会編著『よくわかる都市計画法〔第二次改訂版〕』(ぎょうせい、2018年)36頁以下等を参照。

*2:永井良和『定本 風俗営業取締り』(2015年)147頁。

*3:ただし、バブル期に、規制の緩い白地地域や都市計画区域外でリゾートマンションをはじめとする大規模な乱開発が起きたことなどを受け、現在ではこれらの地域でも一定の開発・建築規制がなされている点に注意が必要である。白地地域・都市計画区域外における規制については、和多治「白地地域・都市計画区域外における小規模開発のコントロールに関する研究」第33回日本都市計画学会学術研究論文集(1998年)517頁以下を参照。

*4:平成28年風営法改正により、保護対象施設は「保全対象施設」と呼び方が変更された。

*5:児童遊園とは、児童福祉法第40条に規定されている児童厚生施設の一つで、児童の健康増進や、情緒を豊かにすることを目的とし、児童に安全かつ健全な遊び場所を提供する屋外型の施設である。単なる公園とは異なり、児童の遊びを指導する者(児童厚生員)が子供の指導にあたることとなっているが、外観はほとんど公園と変わらない。渋谷道頓堀劇場のすぐ近くにも「百軒店児童遊園地」という小さな児童遊園があり、百軒店・道玄坂エリアにおける性風俗店の新規出店を阻む役割を果たしている。

*6:高田馬場に近い、下落合一丁目である。なお、余談であるが、この場所は私の母の実家のすぐ近所であり、私も幼少時代にこの図書館にはよく訪れた。ちなみにこの図書館自体はその後、大久保に移転している。

*7:個室付き浴場(ソープランド)の新規出店を阻むために、知事が児童遊園施設の設置を許可したという、「余目町個室付浴場事件」の最高裁判決である(最判昭和53年6月16日刑集32巻4号605頁 )。

*8:同項は、「都道府県は、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要があるときは、条例により、地域を定めて、店舗型性風俗特殊営業を営むことを禁止することができる」と定める。

*9:他にストリップ劇場を県内全域で禁止しているのは、滋賀県滋賀県風営法施行条例10条1号)及び奈良県奈良県風営法施行条例10条1号)である。

*10:例えば、東京都、宮城県山梨県、石川県、長野県、岐阜県和歌山県大阪府、福岡県、宮崎県、佐賀県沖縄県の12都府県では、ストリップ劇場の営業を商業地域以外の全域で禁止している。なお、全都道府県の営業禁止区域の詳細については、後日本ブログに資料としてアップする予定である。

*11:京都地判平成26年2月25日判時2275号27頁。ただし、この判断は、控訴審判決(大阪高平成27年2月20日判時2275号18頁)及び最高裁判決(最判平成28年12月15日集民254号81頁)によって覆されている。

「女性限定公演」の可能性と展望

1.本記事の目的

 ここ数日、ストリップの常連客の間で賑わいを見せている話題がある。それは、ストリップ劇場で、女性客限定の公演を行うという「女性限定公演」のアイディアについてである。ストリップ客の反応の中には好意的なものも多いが、中には、反対の意見もあり、やや議論がエスカレート気味というのが現状である。

 無論、ストリップの将来をめぐり白熱した議論が行われること自体は歓迎すべきことである。しかし、白熱のあまり議論のすれ違いが起こり、無用ないがみ合いが起こることは誰の得にもならないであろう。不用意に「溝」を深めるようなことを避けるためにも、このテーマをめぐる論点の所在を整理することが必要であるように思われる。

 そこで、本記事では、この問題に関する筆者の賛否は留保しつつ、ツイッター上での議論を分析の素材として、「女性限定公演」をめぐる論点の整理を試みたい。

2.「女性限定公演」のニーズ?

 最初に確認が必要なのは、「女性限定公演」というアイディアに対する女性客の反応が決して一枚岩ではないということである。そのような公演への期待を示す女性客も存在する一方で、その必要性に疑問を示す女性客も少なくない。

 また、もともと、このアイディアは、女性限定のストリップファンオフ会で示されたものであるが、その主催者である高崎美佳さんも、これを「あったらいいなくらいのご要望」であり、「『宝くじ1枚買ったしこれで1億円当たっちゃうかも楽しみだな〜!』くらいの熱量」であると評している*1。したがって、「女性限定公演」の構想が、女性客全員の確固たる総意であるかのように考えるのは、早とちり以外の何物でもないであろう。

 もっとも、全員の総意ではないにせよ、そうした要望が示されたことは、無視できない事実である。そして、そのような要望の背景に、一部の男性客による迷惑行為への恐怖や不安が存在することは看過すべきではない。そこから一足飛びに「女性限定公演」をすべきということにはならないが、全てのお客さんが安心して観劇できる環境づくりは、とりわけ女性客が増えている現在のストリップにおいて、引き続き重要な課題となるように思われる。

 3.現実面での検討

 「女性限定公演」の可能性を考える場合、まず、そのような公演を行うことによる運営・収益への影響というリアリスティックな検討が求められるだろう。その検討の必要性について、いち早く指摘したのが、「ピンク映画界の女王」でもある倖田李梨さんである。

 倖田さんは、成人映画の女性限定の上映の企画を出したという自らの経験をもとに、集客の可能性などの懸念について指摘を加える。そして結論的には、「ストリップとピンク映画は似て非なるものだから違うと思うけど、かなりの動力が必要というのは同じ」であるとして、限定公演の「難しさ」について説く*2。ご自身の経験に裏付けられている分、説得力と示唆に富む指摘である。

 集客面の問題は、劇場経営の根幹に関わるため、現実的にはもっとも重要な関心事となろう。確かに、女性限定公演を平日の1回目公演など、限られた時間帯に開催し、それ以降は男性客の入場を認めることで、集客のマイナスを食い止めるということは十分に考えられる。しかし、そうなると、せっかく女性限定公演を実現したのに、肝心の女性客が(時間的な都合により)集まらないという本末転倒の事態になるおそれもあるし、男性客の方も、特に「プンラス勢」は、その日の来場を避けてしまう可能性が高いように思われる。

 また、告知面でも問題は生じうる。ツイッターを使いこなしている常連客はともかく、ストリップの客層の中には情報機器の使い方を知らない者も多く含まれているだろう。もちろん、この情報社会のご時世で、ホームページをきちんと確認せずに来る方にも落ち度があるとは言えるかもしれないが、何も知らずに来場して門前払いされた者の反感は買ってしまうことになる。

 それ以外にも、運営・収益面での問題は多く存在すると思われる。無論、私は劇場のマーケティングに関する正確な情報を入手できる立場にはないので、実際にどれほど集客面での影響があるかは知る由もない。この問題は、最終的には、劇場経営者が、専門的な経験と知識を生かして、見通しを立てていくべき問題であろう。

4.ストリップ興行のあるべきかたち?

 この「収益が見込めるか」という現実面での検討とは別に必要なのが、ストリップの未来の理想的なかたちを見据えた規範的な検討である*3。すなわち、仮に収益を見込めるとしても、ストリップ興行のあるべきかたちとして、女性客限定の公演を行うことが相応しいかどうかという、価値判断を含んだ問題に取り組む必要がある。

 「女性限定公演」というアイディアに反対の意見の多くは、この規範的な問題と関連している。例えば、私が目にした意見の中には、「今まで劇場を支えてきたのは男性であるという伝統がある中で、男性抜きの公演をするべきではない」というものが見受けられた。ここでは、伝統的に維持されてきたストリップの「かたち」を(部分的にであれ)「改変」してしまうことへの「拒否感」を看取することができる。

 ただし、こうした意見は全く理解できないわけではないものの、やや根拠薄弱の感がある。そもそも、伝統はあくまでも過去のものであり、未来への修正や改変の一切を拒む絶対的な論拠とはならない。また、「女性限定公演」のアイディアは、なにも劇場から男性を完全に排除しようなどという極端な話ではなく、時間帯を限ったささやかな試みとして発案されたものである。これを伝統への「改変」として拒絶することは、些か過剰な反応であろう。

 より悩ましく思われるのは、「女性限定公演」により、男性嫌悪のメッセージが生じることへの警戒である。先ほど述べたように、「女性限定公演」のアイディアの背景には、一部の迷惑な男性客への恐怖と不安があることは想像に難くない。しかし、こうした動機から「女性限定公演」を行うことは、排除の対象とされた男性を一括りに「怖い・汚い・危ない」存在として、レッテル貼りするものではないか、という点が問題になるであろう。

 もちろん、「女性限定公演」のアイディアの支持者も、全ての男性がそのような野蛮な存在であると主張するつもりはないはずである。むしろ、今回の議論の中では、「大部分の男性客は紳士的である」ことが繰り返し強調されている。この点を踏まえると、以上のような警戒を、過剰な反応(あるいは単なる「難癖」)として切り捨てる向きも理解できなくはない。

 しかし、迷惑客が含まれている可能性があるという理由で、「男性」を一括りに締め出してしまうことに対して、男性排除の印象を抱いてしまう者が少なからず存在することも、また理解は可能である。排除されるべきは、(性別を問わず)「迷惑客」という属性であるはずなのに、それが「男性」という変更の利かない自身の属性へとすり替えられることへの、「やるせなさ」や「くやしさ」が、「女性限定(専用)」という単語への感情的な反感を呼び起こしているように思われる。

 この点は、ストリップに限らず、例えば電車の女性専用車両などにも共通する問題であり、簡単に解決することは難しい。もっとも、今回の「女性限定公演」のアイディアは、決して、迷惑客の排除というネガティブな動機だけに支えられたものではない。むしろ、女性客だけの公演を行うことにより、女性ならではの楽しみ方ができるのではないか、というポジティブな理由が存在する。

 高崎さんも、今回のアイディアが出た理由として、迷惑行為の排除だけではなく、「共学もいいけど女子校と男子校もたのしいよね」という「第二の理由」が存在することを指摘している*4。男性と女性との間での「視点」や「感性」の違いは、間違いなく存在している。そうだとすれば、女性客だけの公演を行うことで、普段とは違った、新しい空間が生まれるかもしれない。その発見は、女性客だけではなく、ストリップ全体の発展や活性化にとってもプラスなものとなるだろう。

 冒頭に述べた通り、本記事は筆者の賛否を表明することを目的とするものではないが、仮に「女性限定公演」という構想を推し進めるのであれば、野蛮な(人が含まれている可能性のある)男性の排除というネガティブな理由づけではなく、女性ならではの新しい空間の創造というポジティブな理由づけを前面に押し出す方が、納得や共感を得られやすいのではないかと思われる。

5.おわりに

  ツイッターでも述べたように、この問題の難しさの一端は、「観劇に性別は関係ない」というそれ自体(少数の偏屈な差別主義者を除き)誰も争わない前提から、「だから女性も楽しめるような限定公演をしてよい」とする考え方と、「だから女性限定公演をする必要はない」とする考え方のいずれもが導ける点にある。

 したがって、形式的な男女の平等を訴えるだけでは、考え方の対立を解消することは困難であろう。そのような公演を行うことによる運営・収益への影響という現実面での検討に加えて、ストリップの未来の理想的なかたちを見据えた検討が不可欠であるように思われる。

 最後に、この有意義な議論に契機を与えた高崎美佳さんに最大限の敬意を表したい。現役の踊り子という(ある意味で弱い)立場にありながら、反発が予想されるナイーブなテーマについて、自ら積極的に問題を発信し、自身の考えを明確にすることは、相当の覚悟と勇気を要するものであると想像できる。今回のアイディアがどのような形で結実するかは分からないが、ストリップの理想的な未来に向けた一つの大きな「前進」となることを期待したい。

*1:高崎美佳さんの中の人「女性限定のストリップファンオフ会を主催して私が感じた事」(https://note.mu/mikatakasaki/n/n1ad222259a81)。

*2:https://twitter.com/LiLee_K/status/1097146053399175169

*3:もちろん、企業の目的が利益の追求である以上、現実面で「収益を見込める」以上は、常に実行に移すべきであるという立場もありうる。しかし、我々は通常、利益は見込めてもすべきでないことや、利益が見込めなくてもすべきことの存在を認めている。また、企業の目的が利益の追求に尽きるかどうかもそれ自体大きな論点である(企業の社会的責任に関する現代的展開として、松野弘『「企業と社会」論とは何か』(ミネルヴァ書房、2018年)を参照。)。その意味で、「ザイン(Sein)」と「ゾレン(Sollen)」の問題は区別しておく必要がある。

*4:前掲注(1)のリンクを参照。

ストリップ劇場と風営法

1.はじめに

 前回までは、ストリップ・ショーと公然わいせつ罪の関係について説明を加えてきた。今回からは、新たに、ストリップ劇場と最も関係の深い法律である「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」、略して「風営法*1について、検討を加えていきたい。

 風営法とは、その第1条*2が規定しているとおり、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するための法律である。この目的を達成するため、風営法は、キャバレー、接待をする料理店、麻雀店、パチンコ屋等の風俗営業や、ファッションヘルス、ラブホテル、アダルトショップ、さらにストリップ劇場等の性風俗関連特殊営業」について、営業が可能な時間や場所等の様々な規制を設けている。

 なお、「風俗」と聞くと、性を取り扱う「フーゾク」を連想する方が多いかもしれないが、その本来の語義は、地域社会固有の生活の上での仕方やしきたりを指すものである。戦前の「風俗警察」は、まさに地域ごとの生活慣習を広範囲にわたりコントロールするものであり、例えば、映画や演劇、広告などの営業も取締対象に含まれていた。

 その後、戦後の民主化の過程で、風俗警察の権限の及ぶ範囲が、飲酒・賭博・売買春に関するものに限定される一方、現在に至るまでに、性に関する娯楽・サービスが著しく肥大化したことで、日常用語的には「風俗」といえば「フーゾク」が連想されるようになったと考えられる*3。その用語法に異を唱える必要はないが、風営法上、いわゆる「フーゾク」店は、単なる風俗営業」ではなく、「性風俗関連特殊営業」という特別なジャンルにカテゴライズされている点には、注意をしておく必要がある。

 以下では、「性風俗関連特殊営業」に分類されるストリップ劇場が、風営法においていかなる規制を受けているのかを概観する。

2.「許可」制ではなく「届出」制

 以上で見たように、ストリップ劇場は「性風俗関連特殊営業」としての規制を受けている。より正確には、性風俗関連特殊営業の中の「店舗型性風俗特殊営業」に当たる。風営法2条を見てみよう。

(用語の定義)

第2条 1~4 (略)

5 この法律において「性風俗関連特殊営業」とは、店舗型性風俗特殊営業、無店舗型性風俗特殊営業、映像送信型性風俗特殊営業、店舗型電話異性紹介営業及び無店舗型電話異性紹介営業をいう。

6 この法律において「店舗型性風俗特殊営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。

一 浴場業(公衆浴場法(昭和二十三年法律第百三十九号)第一条第一項に規定する公衆浴場を業として経営することをいう。)の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業

二 個室を設け、当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業(前号に該当する営業を除く。)

三 専ら、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行その他の善良の風俗又は少年の健全な育成に与える影響が著しい興行の用に供する興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定するものをいう。)として政令で定めるもの*4を経営する営業

四 専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する政令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業

五 店舗を設けて、専ら、性的好奇心をそそる写真、ビデオテープその他の物品で政令で定めるものを販売し、又は貸し付ける営業

六 前各号に掲げるもののほか、店舗を設けて営む性風俗に関する営業で、善良の風俗、清浄な風俗環境又は少年の健全な育成に与える影響が著しい営業として政令で定めるもの  

7~13 (略)

  第5項を読むと、「店舗型性風俗特殊営業」が「性風俗関連特殊営業」の一部として規定されていることが分かる。ちなみに「無店舗型」というのは、要するにデリヘル(デリバリーヘルス)のことである。

 第6項には「店舗型性風俗特殊営業」に当たる営業がリストアップされている。一見すると複雑そうだが、簡単に言えば、ソープランド等(1号)、店舗型ファッションヘルス等(2号)、ストリップ劇場等(3号)、モーテル・ラブホテル等(4号)、アダルトショップ等(5号)、そのほか政令で定める営業(6号)となる。

 この「店舗型性風俗特殊営業」を営もうとする場合、公安委員会に「届出」書を提出する必要がある(27条1項)。もしも、届出をせずに営業した場合には、「無届営業」罪となり「6月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金(又は併科)」の刑が科せられる可能性がある(52条4号)。

 ここで興味深いのは、性風俗店の営業については、「許可」制ではなく「届出」制が採られている点である。これに対して、キャバレー、接待をする料理店、麻雀店、パチンコ屋等の「風俗営業」については、公安委員会の「許可を受けなければならない」と規定され、許可制が採られている(3条1項)。一見すると、より厳しい規制が必要な性風俗店の方こそ、「許可」を求めるべきであるようにも思えるが、この違いはどこから生まれるのだろうか。

 この点について、当時の警察庁刑事局保安部長であった鈴木良一は次のように答弁している*5

 まず、「風俗営業」とは、「本質的に国民に社交と憩いの場を与えるもので、健全な娯楽の機会を与えるものである」。しかし、営業の方法や内容によって「業務が不適正に行われる場合には、それは風俗上の問題を引き起こす可能性がある」ため、問題が起きないように規制を加え、業務の健全化を図る必要があるという。

 これに対して、性風俗関連特殊営業は「性を売り物にする」ものである。これらの営業は、そもそも不健全であるため「営業の健全化にはなじまない」。したがって、地域禁止規制というものを厳しくかけ」るし、「違反があれば厳しい行政処分もかける」。性風俗関連特殊営業については、「そういうふうに監視していくということが大事」であって、「決してそれを公認するというようなものではない」。

 このような区分に応じて、風俗営業には「許可」が必要とされるのに対し、性風俗関連特殊営業は、「許可」になじまないものであるとの立場から、「届出」のみが義務付けられたというのである。

 この答弁自体には様々な疑問が湧くところであるが、いずれにせよ明らかなのは、「届出」制だからといって、規制が甘いというわけではなく、むしろ事態はその真逆だということである。この答弁によれば、性風俗店は本質的に「悪」なのである。なければそれに越したことはないが、存在してしまう以上は、厳しく規制と監視を及ぼすべき営業こそが、性風俗関連特殊営業であり、ストリップ劇場なのである。

3.人的・時間的・場所的規制

 それでは、具体的に、「店舗型性風俗特殊営業」としてのストリップ劇場は、風営法でいかなる規制を受けているのだろうか。

 風営法の規制は、大きく「人・時間・場所」の3本柱からなる。その基本的なコンセプトは、善良な風俗環境に悪影響を及ぼす可能性のある営業を、空間的に隔絶しておくことにある。この「囲い込み」方式のルーツは、江戸時代の遊郭システムにまで遡るとの指摘がなされている*6。社会空間が悪所とそうでない所に区別され、大人の男だけが、特別に設けられた空間で「くろうとの女性」と接触する。これが、性にかかわる風俗営業の、江戸以来の基本的な「かたち」である。

 もう少し風営法における規制内容を具体的に見よう。まず、「人」的規制として、周知のように、ストリップ劇場は「18禁」であり、18歳未満の者を劇場に客として立ち入らせることは禁止されている。もちろん、18歳未満の者を客に接する業務に従事させることも許されない。ちなみに、18歳になっていれば、高校生であっても、観客として入場することに法律上の問題はないが、見分けがつきにくい等の理由から入場を断ることが多いようである。

 なお、営業者に関する規制として、「風俗営業」は、一定の前科者や薬物中毒者等がやろうとしても、その許可が下りない仕組みになっている(4条1項)のに対して、「性風俗関連特殊営業」については、そもそも「許可」が不要であることもあり、このような規制はない。ただし、営業者が、一定の罪(例えば、公然わいせつ罪)を犯した場合には、営業停止を食らう可能性があるため、事実上、犯罪を犯さないことが営業を続けるための条件と言うことはできるだろう*7

 続いて、「時間」的規制として、ストリップ劇場は「深夜」、すなわち、「午前0時から午前6時」までの間、営業が禁止されている(13条1項*8)。皆さんの中には、物足りず朝まで観劇したいと思う方も多いだろうが、劇場の多くが午前0時までに閉まってしまうのは、風営法の規制がきちんと守られている証拠なのである。

 最後に、一番厄介なのは「場所」的規制である。これについては、今後の記事の中で改めて詳細に取り上げるが、一言でいえば「エグい」くらい厳しいものである。風営法28条1項は、営業禁止エリアとして、学校、図書館、児童福祉施設等の「保全対象施設」の周囲200メートルの区域を定めている。したがって、周囲200メートル以内にこれらの施設がある場所では、ストリップ劇場の営業を始めることはできない。

 これだけでも結構厳しいのだが、さらに、都道府県の条例で、この「保全対象施設」をいくらでも追加できるうえに、必要があるときは、地域を定めて、その地域全体での営業を禁止することもできる(28条2項)という「完全無欠の」オプション付きである。これが、「ストリップ劇場の新設は事実上不可能」といわれる所以である。

4.おわりに

 今回は、ストリップ劇場をめぐる風営法の規制の内容について概観を加えた。特に「場所的」規制については、今後の記事でさらにその問題を具体的に検討したい。

 鈴木良一の答弁に見られたように、風営法において、「性風俗関連特殊営業」としてのストリップ劇場は、本質的にいかがわしく不健全なものであり、なければないに越したことはないような「悪」である。社会が漂白されていくに連れて、真っ先に槍玉に挙げられることは、ある種当然の流れだろう。しかし、性風俗は本当に本質的に「悪」なのだろうか。上で見たように、「性風俗関連特殊営業」にも様々な業種が規定されているが、それらは本当に一括りにして良いものなのだろうか。社会が漂白され尽くす前に、慎重に検討してみる必要があるだろう。

 また、遊郭システムにルーツを持つ「囲い込み」方式の限界についても考える必要がある。インターネット通信の発達した現代において、性産業の中心は、「店舗型」ではなく「無店舗型」に完全に移行している。ここでは「囲い込み」方式はもはや通用しない*9風営法はこれまで幾度となく改正を重ねることで、この事態に対応してきたが、「増築に増築を重ねた老舗旅館のような風営法*10には、いずれガタがくるだろう。その意味でも、現代社会は、風俗と法のあり方について、抜本的な見直しを加える時期に来ているのかもしれない。

*1:その前身は、戦後の混乱期に規制の空白に対処するため、1948年に制定された「風俗営業取締法」である。1984年に「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」に改正されて以降は、「風適法」との略称が多く用いられたが、現在では再び「風営法」と称するのが主流となっているため、本記事でもこれに従う。なお、本法の制定及び改正の経緯については、風俗問題研究会『風営適正化法ハンドブック〔第4版〕』(2016年)2頁以下が詳しい。

*2:この目的規定は、少年の健全育成に主眼を置いた1984年の改正で新たに設けられたものである。1984年の改正については、澤登俊雄「風俗営業法改正の経緯と新風営法の性格」法律時報57巻7号(1985年)8頁以下参照。

*3:「風俗」と「フーゾク」の意味あいについて、永井良和『定本 風俗営業取締り』(2015年)22頁以下参照。

*4:この法律の委任を受けて、同法施行令2条は、「ヌードスタジオその他個室を設け、当該個室において、当該個室に在室する客に、その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態又はその映像を見せる興行の用に供する興行場(1号)」、「のぞき劇場その他個室を設け、当該個室の隣室又はこれに類する施設において、当該個室に在室する客に、その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態又はその映像を見せる興行の用に供する興行場(2号)」、「ストリップ劇場その他客席及び舞台を設け、当該舞台において、客に、その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態又はその姿態及びその映像を見せる興行の用に供する興行場(3号)」を挙げている。

*5:「第101回国会参議院地方行政委員会会議録」第18号。

*6:永井・前掲注(3)30頁以下参照。

*7:熊田陽子「現代日本における性風俗店営業の法的位置づけ」人間文化創成科学論叢13巻(2010年)313頁は、営業停止の根拠規定を、営業者の立場から読み替え、解釈すると、「~の罪を犯してはならない」という禁止の言説になると指摘する。

*8:ただし、特別の行事の日や特別の地域について、都道府県が条例で特別に定めを置けば、「深夜」の時間帯でも営業を営むことができる。反対に、条例の定めにより、「深夜」以外の時間帯について営業を制限することもできる(13条2項)。

*9:永井・前掲注(3)219頁は、さらに、子どもを守る砦であったはずの家庭という「聖域」が性風俗の「現場」に転化する可能性の重要性についても指摘する。

*10:神庭亮介「ルポ風営法改正」(2015年)267頁。