「性風俗業は不支給」のロジック?

1.はじめに

 新型コロナウィルスの感染拡大という異常事態は、平時には埋もれていた様々な社会の歪みを鮮明に浮き彫りにする。性風俗差別の問題もその一つである。

 最初の事件は、日本においてコロナの感染が拡大し始めた当初の、夜間への外出自粛要請などが出されるようになった4月の初頭に起きた。厚労省が、コロナの影響による一斉休校の影響で休職した保護者を支援する制度を設けたのだが、そこで、風俗営業の関係者などが支給の対象外とされたのである。これに対しては、大手新聞社などのメディアやSNSから「職業差別である」「命を選別するのか」といった批判が殺到し、最初は「取扱いを変える考えはない」としていた加藤前厚労相も一転して、4月7日には、風俗業の関係者も支給の対象とするとの表明を行った。これを受けて、「支給要領」の不支給要件から、風俗業関係者が除外されるに至り、問題は一件落着したかのように見えた。

 しかし、続いてスタートした「持続化給付金」や「家賃支援給付金」といった制度において、またしても性風俗産業は支援の対象から除外された。こうした取扱いについて、国会で理由を問われた梶山経産相は、「社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくいといった考えのもとに、これまで一貫して国の補助制度の対象とされてこなかったことを踏襲し、対象外としている」との答弁をしているが、あからさまな職業差別を正当化する根拠として、十分に納得のできる説明とはいえるかは疑わしい。むしろ、無批判な前例踏襲主義と「国民」への責任転嫁により、説明責任を回避しているような印象さえ与えるものであり、憤りを感じる者も少なくないであろう。

 もっとも、憤ってばかりいて何か問題が解消するわけではない。問題を解消するためには、「不支給」という決断を導いた公権力側のロジックを整理・分析し、これに対抗するための手立てを冷静に考えていく必要がある。そこで、本記事ではその予備的検討として、今回の「不支給」問題の概要を示したうえで、あえて行政側の視点に立ち、「不支給」の判断を支持しうる論理として、どのようなものがありうるかを考察したい。

2.何が問題となっているか

 「持続化給付金」や「家賃支援給付金」といった制度はいずれも、新型コロナウィルスの影響により経済的な打撃を受けた事業者の支援を目的として国が設けたものであり、中小企業や小規模事業者、フリーランスを含む個人事業者などが幅広く支援の対象とされているが、性風俗業は明示的に対象外とされている。

 持続化給付金の給付要件について、所轄官庁である経済産業省の定めた「持続化給付金給付規程」の8条3号によれば、風営法に規定する「性風俗関連特殊営業」を行う事業者については、給付金を給付しないとされる。「性風俗関連特殊営業」とは、本ブログですでに説明したとおり、ソープランド、ラブホテル、さらにはストリップ劇場も含む、いわゆる性風俗業を指す。同条ではほかにも、政治団体(4号)や宗教団体(5号)が支援対象外とされているが、これらの団体への不支給は、公権力による経済的支援が適切でないという特別な理由によるものであろう。数ある産業の中で、性風俗業だけが狙い撃ちで不支給とされているのである。

 ただし、持続化給付金や家賃支援給付金のいずれについても、性風俗業の届出を行った事業主は支援対象外であるものの、性風俗店で「個人事業主」として働く人は支援対象とされている。セックスワーカーの中には、性風俗店の従業員としてではなく、店から業務委託を受ける形で、個人事業主として働く人が少なくないが、こうした人達は、支援の対象となりうる。

 とはいえ、新型コロナウィルスの打撃を受けているのは、風俗店の経営者も同様であり、その経営が成り立たなくなれば、結局のところ多くの従業員やセックスワーカーは行き場を失うことになる。性風俗業だけを切り捨てることの合理性と正当性が厳しく問われなければならない。

 この問題をめぐっては、すでに関西地方のデリヘル経営者が、性風俗業の事業者だけを給付の対象外とするのは職業差別であり、憲法の定める法の平等に反するとして、国を相手取った訴訟を提起している。憲法学者の木村草太がコメントするように、本訴訟は、性風俗関連の給付除外について、公権力の側に「正式な説明をさせるという1点だけでも、意味のある訴訟」(なぜ、風俗業は持続化給付金の対象外?事業者が国を提訴。 憲法学者に聞く訴訟の意義とポイント(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース)であり、今後の動向にも注目を要するところである。

3.性風俗除外のロジック?

 それでは、「性風俗は不支給」を正当化する公権力の側のロジックとして、どのようなものが想定されるのだろうか。

 まず考えられるのは、性風俗業は、なくなるならそれに越したことはない本来的に不健全な産業であり、公的な資金を投じて、その継続や再起を支援するのには相応しくないという言い分であろう。国側が、ここまであからさまに職業差別的な主張を展開するかは現時点で不明だが、「それが国民の社会通念である」といったように、いわば国民に責任をなすりつけるような形で、根拠に盛り込んでくる可能性は高いように思われる(冒頭の梶山経産相のコメントも参照)。

 これに対しては、性風俗の営業を国が正式に認めている以上、通らない理屈ではないか、という批判がなされることがある。しかし、ここで注意が必要なのは、少なくとも性風俗営業について、国が「許可」を与える(た)という制度や事実は存在しない、ということである。風営法は、性風俗営業の「届出」による営業を認めているだけであり、「許可」制度は採用していない。

 細かい言葉の問題にすぎないように思われるかもしれないが、この点は公権力側のロジックを考えるうえで、重要なポイントである。これもすでに本ブログで詳説したところだが、あえて「届出」制が採られていることの背景には、性風俗が不健全な産業であり、公権力による「許可」に馴染まない、かといって自由にやられては余計に社会に迷惑をかけるため、行政が厳しく監視しておかなければならない、という前提理解がある。まさに、「なくなるならそれに越したことはない」という発想のもとに成り立っているのである。

 このように、風営法の中に「表現」された前提理解が、これまでの日本社会の中で、明示的に攻撃の対象とされ、拒絶されたという社会的・政治的事実がない限り、法を運用する公権力の側としては、これと整合的な政策決定を行う必要がある、というロジックは、少なくとも理屈の上では成り立ちうるであろう。

 また、不支給に反対する論の中には、セックスワーカーの多くは、経済的に困窮し、やむなく性風俗店で働く者であり、そうした存在を支援から外すことは、その生存そのものを脅かすことに等しいとするものもある。しかし、これに対しては、個人の生活水準をいかに保障するかという問題と、どのような事業を支援するかという持続化給付金等の制度とは、分けて考えるべきである、という反論が考えられる。

 確かに、当初問題となったような、休職した保護者の生活資金の援助の必要は、性風俗従事者かどうかとは無関係に生じるものであり、そこに区別の合理的理由を見出すことは困難である。これに対して、持続化給付金において問題となっているのは、性風俗業という産業の将来の「持続化」を、公的な資金を通じて支援すべきかどうかという問題であり、ここでは、「支援に値する産業かどうか」という、産業自体の性質に着目する必要がある。先に見たような、性風俗産業を本来的に不健全であるとみなす法的位置づけを前提とする限り、この点は否定的に解さざるを得ない。ましてや、「経済的困窮によりやむなく働く」者が多いような業種であれば、なおさら支援の対象とするわけにはいかず、同じお金で、より「健全」な別の労働環境を拡充すべき、ということになろう。

 さらに、法理論的には、今回の不支給が、「法律」として定められているわけではなく、あくまでも、持続化給付金制度を所管する経済産業省が定めた、行政上の基準にすぎないことも重要である。もし法律の形で定めるのであれば、上述したような、性風俗を「悪」とする社会通念が現存するかどうかを議論し、性風俗業を一律に不支給とすることの正当性・合理性を慎重に精査する必要がある。こうした精査を怠って、立法に至れば、「国会の怠慢により不平等な法律を作った」との非難を免れないであろう。

 しかし、今回のように、一行政機関が給付基準を設定するという場合、できることは自ずから限られてくる。長らくにわたり、法の運用の前提理解とされてきた、性風俗業の位置づけを、一行政機関の一存で勝手に書き換えるわけにはいかない。ここに、「前例踏襲」の素地がある。本記事の冒頭で、梶山経産相の答弁を「無批判な前例踏襲主義」と表現したが、前例をひっくり返すだけの材料のない段階で、これを要求するのは、ある意味無理な注文ともいえる。

 以上のように、「なくなるならそれに越したことはない」性風俗産業につき、こうした前提理解(社会通念)の明示的な変更がない現時点で、これまでの前例を踏襲し、支援の対象から除外した判断は、少なくとも行政の裁量を逸脱・濫用した違法なものとはいえない、というロジックが、想定されるであろう。

4.おわりに

 こうしたロジック自体は(個人的な憤りはともかく)法律論として、全くナンセンスであるとまではいえない。根本的な問題はやはり、こうしたロジックの出発点とされる、性産業の社会的・法的位置づけに存する。性産業の位置づけを「グレー」なままにし、なんとなく問題を先送りにしてきたツケが、こういう非常事態において現実化する。残酷なのは、先送りにしてきた人間と、それによりツケを払わされる当事者が一致しないことである。これほどの不正義はない。もはや、これ以上の議論の先送りは許されないであろう。

 最後に、この「不支給」をめぐる世間からの批判として、貧困に苦しむセックスワーカーの悲惨さを強調しようとする声もしばしば見受けられるが、先に見たように、こうした問題提起の仕方は、性産業に対する偏見や差別を解消するための方法として必ずしも効果的とはいえないように思われる。確かに、そうした状況に苦しむセックスワーカーの存在を否定することはできないし、その労働や環境の改善をいかに図るかは、大きな課題である。しかし、「セックスワーカー=可哀想な人たち」という一方的なスティグマは、「まさにセックスワーカーに対する社会的排除であり、セックスワーカーイデオロギー的利用」(SWASH編『セックスワークスタディーズ』(日本評論社、2018年)34頁〔要友紀子〕)に他ならない。問題の矮小化に陥らないような、多面的な検討が不可欠である。

なぜストリップ劇場は増改築できないのか

1.はじめに

 ストリップ劇場を初めとして、既存の性風俗店のほとんどは増改築が許されておらず、建物の老朽化が進んでいることは、よく知られた事実である。最近でも、2017年に、5名の死者を出した埼玉県大宮ソープ火災で、風俗店の老朽化が社会問題としてクローズアップされたことは記憶に新しい*1

 もっとも、風俗店の増改築が許されないことの法律上の根拠や、規制の具体的な内容については、正確に把握されていると言い難いように思われる。そこで、今回の記事では、性風俗店の増改築禁止の根拠と範囲につき、解説を加えたい。

2.性風俗店の「既得権」保護

 その前提として、まず、既存の性風俗店のほとんどが「既得権」により営業していることを確認しておく必要がある。

 これまでの記事で確認してきたように、現行の風営法は、ストリップ劇場を初めとする性風俗店の営業について、極めて厳しい場所的規制を設けている。具体的には、学校や図書館等の「保全対象施設」の周囲200メートル以内での営業ができないほか、各都道府県の条例で禁止エリアとして指定された地域での営業も許されない。その結果として、国内のほとんど全域が営業禁止エリアといっても過言ではない状況にある。

 それでは、現存しているストリップ劇場は、その多くが営業禁止エリアに存在しているにもかかわらず、なぜ今でも営業が許されているのだろうか。その鍵を握るのが「既得権」というキーワードである。

 風営法28条3項は、以上の場所的規制について、その「施行又は適用の際現に〔中略〕店舗型性風俗特殊営業を営んでいる者の当該店舗型性風俗特殊営業については、適用しない」と定めている。すなわち、法改正により営業禁止エリアとなる以前から、その場所で経営している性風俗店については、事業者の「既得権(すでに獲得している権利)」の保護という観点から、「場所的規制を適用しない=そのまま営業を続けてもよい」ということが認められているのである。

 この「既得権」保護の是非については色々と議論がある。それまで真っ当に営業していた性風俗店の営業権を、後出しの法律で奪い取るのは正義に反するという理由で、既得権をなるべく強く保護すべきだという考え方もあれば、新しい法律で営業禁止エリアとなった以上は、既存の業者といえどもそれに従うべきで、既得権などという特権を認めるべきではないという考え方もある。また、既得権を認めるとしても、一定のタイムリミットを設けるべきであるという意見もある。

 こうした議論自体は興味深いものであるが*2、いずれにせよ、現行の風営法は、既存の性風俗店に対して、イムリミットなしの既得権を認めるという態度を採用している。それゆえ、経営者が生きている限り(会社による経営の場合は、その会社が存続する限り)、既存のストリップ劇場はその営業を続けることができるということになる。

 3.増改築禁止の根拠と限界

 ここで本題に戻ろう。それでは、なぜ既存の性風俗店は増改築が許されないのだろうか。

 実はその答えは、先ほど見た条文の中にある。風営法28条3項により「既得権」が認められるのは、もともと性風俗店を営んでいた者の「当該」店舗型性風俗特殊営業に関してである。したがって、大規模なリニューアルを行うことによって、以前の営業との同一性が失われるような場合には、もはや「当該」店舗型性風俗特殊営業店とはいえなくなり、既得権を失うことになる*3。その結果、そうしたリニューアルの後になされる営業は、たとえ看板が同じでも、既得権の及ばない、いわば「新たな違法出店」ということになり、風営法により処罰される可能性が生じることになるとされるのである*4

 問題は、どのような場合に、この「営業の同一性」が損なわれるかである。この点について、警察庁の公表している解釈運用基準第19の1(2)によれば、ストリップ劇場の場合、①建物の新築、移築又は増築はもちろん、②客席又は舞台の改築*5、③建物の大規模な修繕・模様替え、これに準ずる程度の間仕切り等の変更、④客に供用する床面積の増加、⑤営業の種別又は種類の変更(例えば、のぞき部屋への変更)と、かなり広い範囲が「アウト」とされている。

 しかし、建物がいずれは老朽化する以上、建物の修繕なども含めた増改築を一切許さないというのでは、性風俗店に対して、「そのまま朽ち果てろ」と言っているに等しい。あるいは、老朽化したまま営業が続けられれば、大宮ソープ火災のように、惨劇が起きる原因にもなりうる。これで、果たして既得権をきちんと保護していることになるのか、という点は疑問として残る。

 また、そもそも、風営法性風俗店の営業を厳しく規制している根拠は、外部周辺環境への悪影響に求められていたはずである(風営法1条参照)。そうだとすれば、「営業の同一性」が損なわれるかどうかも、工事の前後で外部周辺環境がより悪化したかどうかで判断されるべきであり、少なくとも、改修工事が店(劇場)の内部にとどまる限りは、周辺環境への影響はないのだから「セーフ」だという考え方も、理屈としては成り立ちうるであろう。

 もっとも、現在の裁判所はこうした考え方をきっぱりと否定している*6。裁判所の理屈によれば、そもそも既得権制度というのは、本来営業が禁止されるエリアに、いわば「お情け」で営業の継続を認めるものにすぎない*7。そういう例外的な恩典にすぎないのだから、増改築の自由まで寛大に認めてやる必要は存在しないのである。建物の外側であろうと内側であろうと、改修工事により店舗の「延命」を図ることは、もはや既得権の範囲を逸脱した許されない行為だということになる。

4.おわりに─風営法の「歪み」?─

 こうした裁判所の考え方は、比喩でもなんでもなく、まさに性風俗店に対して「そのまま朽ち果てろ」ということを求めるものである。先ほど述べたように、既得権それ自体に法律上のタイムリミットは設けられていないが、「老朽化」という、いわば物理的なタイムリミットによって、性風俗店の「自然消滅」を図るというのが、風営法の作戦だということになる。

 こうしたやり方の是非については議論が必要である。確かに、増改築を無制限に許容し、名実ともに「永久の既得権」を認めれば、既存の事業者に過剰な利益を与えることにもなりかねない*8。少なくとも、性風俗店を本来的な「悪」とみなす現行の風営法の解釈としては、裁判所の考え方にも一定の合理性があると言える。

 しかし、たとえ「既得権」でも、それが法律で権利として保障されている以上は、きちんと保護すべきという立場もありうるだろう。そもそも、既得権の保護が、本当に単なる「お情け」にすぎないのかという点についても検討が必要である。もし、既得権保護の背後に、むやみに既存業者の営業の自由(憲法22条)や財産権(憲法29条)を犯してはならないという憲法上の要請があるとすれば、むやみな増改築の制限もまた憲法上不当と考えられることになろう。

 また、増改築の制限が、老朽化された建物の無理な使用を促し、かえって風俗に関わる者の危険性を高めたり、反社会的勢力を呼び込みやすい環境を作り出しているとすれば、こうした「歪み」も無視することができない。風営法の意向としては、安全性に問題が生じた時点で、店を畳みなさいということなのだろうが、一度畳んでしまうと、再び新規開業することは事実上不可能となる現在の法制度において、こうした選択は現実的に厳しいものがある。「時代遅れの風営法と揶揄されて久しいが、今一度、風営法の本来の目的に立ち返った規制の見直しが求められるように思われる。

*1:本件に関する報道記事として、例えば、「大宮風俗店火災に全国の歓楽街で働く人々が震撼した事情」NEWSポストセブン(2017年12月31日)を参照。

*2:既得権を尊重することの意義につき、フランス法の議論を参照しつつ、本格的な検討を加えたものとして、斉藤健一郎「法、時間、既得権:法の時間的効力の基礎理論的研究」2014年度筑波大学博士(法学)学位請求論文171頁以下を参照。

*3:風俗問題研究会著『風営適正化法ハンドブック〔第4版〕』(立花書房、2016年)117頁。

*4:この場合、営業禁止区域等の規制に違反したことになるため、風営法49条5号及び6号により、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金(併科されることもある。)が科せられる可能性がある。

*5:ここでいう「改築」とは、「建築物の一部(当該部分の主要構造部の全て)を除去し、又はこれらの部分が災害等によって消滅した後、これと用途、規模、構造の著しく異ならないものを造ること」をいうとされる。

*6:東京高判平成21年1月28日裁判所ウェブサイトは、店舗の周辺環境に及ぼす負荷が増大していない場合には、営業の同一性が維持されていると評価すべきとの弁護人の主張につき、「独自の見解であって採用できない」と断じている。

*7:例えば、前出・平成21年高判の原審である、東京地判平成19年12月26日裁判所ウェブサイトは、「禁止区域において風俗関連営業を営むことは、本来許されないことであ」り、既存の事業者でも本来は「禁止区域にある限りその営業は当然禁止されるべきものである」という前提を述べたうえで、既得権制度をあくまでも「例外的に、禁止区域における営業の継続を認めたもの」と位置づけ、こうした制度趣旨に鑑みれば「建物の新築、増改築、大規模な修繕や模様替え等を行ったことによって、以前の営業所における営業との同一性が失われるような場合には、もはや従前より営んでいたことによる例外的な保護を与える必要は毫も存在しない」としている。こうした判示の背後には、明言はされていないものの、既得権制度を国家による「お情け」のようなものと捉えている裁判所の理解を伺うことができよう。

*8:大塚尚『風俗営業判例集』(立花書房、2016年)237頁以下は、改築等による営業の拡張を認めると、キャッシュフロー成長率がプラスになり得ることから、それが割引利子率を超えれば、既得権が無限大の価値を持つことになりかねないため、改築等を認めないことも妥当であると評する。

〔資料〕各都道府県における営業禁止区域

 ストリップ劇場には厳しい場所的規制が課せられているが、中でもとりわけ、都道府県条例による、区域を定めての営業禁止(風営法28条2項)が劇場の新規開業にあたり最大の難関となる。そこで、今回は資料編として、各都道府県がストリップ劇場の営業をどの範囲の区域で禁止しているかにつき、網羅的に紹介したいと思う。

 なお、前回の記事をお読みいただければ分かるように、ストリップ営業の場所的規制としては、さらに、「200メートル規制」も存在する。そのため、本記事が紹介する営業禁止区域の外であっても、200メートル以内に学校や児童福祉施設等の保全対象施設が存在するエリアでは、新規に営業を開始することが許されない点には注意する必要がある。

 営業の禁止区域の定め方は各都道府県により異なり、(1)県内全域で禁止するタイプ、(2)商業地域以外の全域で禁止するタイプ、(3)特定の区域以外の全域で禁止するタイプ、(4)特定の区域で禁止するタイプ、(5)その他のタイプに大きく分かれる。以下では、この分類に従って、各都道府県における規制の現状について整理する。なお、本資料の情報はあくまでも現時点(2019年8月)でのものであり、今後の条例改正により変更される可能性があることは予めお断りしておきたい。また、情報の正確性には細心の注意を払っているが、万一、誤りや不正確な点を発見された場合には、ご一報をいただけると幸いである。

 (1)県内全域で禁止

 兵庫県滋賀県奈良県の3県では、ストリップ劇場の営業を県内全域で禁止している。 

(2)商業地域以外の全域で禁止

 宮城県山梨県、東京都、石川県、長野県、岐阜県和歌山県大阪府、福岡県、宮崎県、佐賀県沖縄県の12都府県では、ストリップ劇場の営業を商業地域(都市計画法8条1号)以外の全域で禁止している。なお、各自治体における商業地域の範囲については、こちら用途地域マップなどで確認することが可能である。

(3)特定の区域以外の全域で禁止

 下記の自治体では、ストリップ劇場の営業を特定の区域以外の全域で禁止している。以下では、各自治体ごとに営業が可能な区域を記載する。

・北海道:札幌市中央区の南4条(南4条通り以南の地域に限る。)、南5条及び南6条のそれぞれ西2丁目及び西5丁目の地域

秋田県秋田市の区域のうち商業地域、温泉地として公安委員会規則で定める地域

岩手県:商業地域及び温泉地のうち公安委員会規則で定める地域

福島県福島市会津若松市郡山市及びいわき市の商業地域、温泉地等で公安委員会規則で定める地域

山形県山形市米沢市鶴岡市酒田市及び新庄市の商業地域の区域、山形市蔵王温泉鶴岡市湯野浜一丁目、上山市沢丁、高松及び葉山、天童市東本町二丁目及び鎌田一丁目、南陽市赤湯、最上郡最上町大字富沢、西田川郡温海町大字湯温海

・千葉県:主として商業の用途に供される店舗等により、市街地が形成されている地域及び現に市街地化されつつある商業地域

・神奈川県:横浜市中区のうち野毛町、宮川町、福富町西通、福富町東通、末吉町、若葉町及び曙町、川崎市川崎区のうち堀之内町及び南町

三重県桑名市駅元町、参宮通(一般国道一号の西側で市道駅元町一号線の南側の区域に限る。)、有楽町、桑栄町(市道名駅前線の西側の区域を除く。)、大字桑名字十二番、寿町一丁目及び寿町二丁目(市道名駅前線の西側の区域を除く。)の区域、四日市市西新地(市道西新地久保田線の北側及び東側の区域を除く。)及び諏訪栄町の区域、津市大門(市道東丸之内相生町線の東側の区域、市道大門第四号線の南側及び西側の区域並びに市道東丸之内北町線の西側の区域のうち市道中央大門線の南側の区域を除く。)の区域、松阪市愛宕町四丁目、愛宕町市道塚本春日線の北側及び東側の区域を除く。)、愛宕町三丁目、愛宕町一丁目(市道乙四号線の南側及び西側の区域並びに一般国道四十二号の西側の区域を除く。)及び愛宕町二丁目(市道乙四号線の南側の区域を除く。)の区域、伊勢市大世古二丁目(市道八日市場高向線の西側の区域を除く。)及び一之木二丁目(東海旅客鉄道株式会社参宮線の北側の区域を除く。)の区域

山口県山口市湯田温泉四丁目の区域及び長門市深川湯本の区域 

鳥取県鳥取市末広温泉町及び永楽温泉町の区域 、鳥取市吉岡温泉町の区域、鳥取市気高町北浜一丁目、気高町北浜二丁目、気高町北浜三丁目、気高町新町三丁目、気高町浜村及び気高町勝見の区域、鳥取市鹿野町今市の区域、米子市皆生温泉三丁目の区域のうち、市道皆生温泉20号線、市道皆生温泉13号線市道皆生温泉11号線及び市道皆生温泉14号線によって囲まれた区域、倉吉市関金町関金宿の区域、岩美郡岩美町大字岩井の区域、東伯郡三朝町大字三朝の区域のうち、県道三朝温泉木地山線、町道堂小路線、町道三朝砂原線町道川岸線及び三徳川左岸によって囲まれた区域、東伯郡湯梨浜町大字上浅津、大字はわい温泉、大字松崎及び大字旭の区域

島根県松江市千鳥町及び玉湯町玉造、大田市三瓶町志学並びに江津市有福温泉町の区域

広島県広島市中区薬研堀一番街区、四番街区、五番街区及び八番街区並びに同区弥生町三番街区及び六番街区

香川県:商業地域並びに琴平町の区域のうち、町道北富士見町線、町道南新町線、町道栄町東裏通2号線、琴平町字川東250番6地先から琴平町字川東246番2地先までの町有地である道路及び町道大宮新地川筋線により囲まれた区域

徳島県徳島市栄町一丁目及び鷹匠町一丁目

高知県高知市のうち 堺町(1番街区から9番街区までを除く。)、与力町(1番街区、8番街区及び9番街区に限る。)

熊本県:商業地域及び熊本県公安委員会が指定する地域

長崎県長崎市のうち銅座町8番から15番まで(8番から10番まで及び13番にあっては市道伊勢町大浦町線の近接する側端から20メートルの区域内及び14番にあっては市道伊勢町大浦町線及び市道浜町油屋町1号線の近接する側端から20メートルの区域内を除く。)、本石灰町3番から5番まで(5番にあっては市道本石灰町高丘線の近接する側端から20メートルの区域内を除く。)並びに船大工町1番及び2番並びに佐世保市のうち山県町1番から4番まで(1番にあっては市道上京下京町1号線、市道夜店通線及び市道下京万津町線の近接する側端から20メートルの区域内、2番にあっては市道夜店通線及び市道下京万津町線の近接する側端から20メートルの区域内、3番にあっては市道夜店通線の近接する側端から20メートルの区域内及び4番にあっては市道下京万津町線の近接する側端から20メートルの区域内を除く。)

・鹿児島県:鹿児島市山之口町の地域、指宿市湯の浜五丁目の地域及び霧島市丸尾交差点の周囲100メートル以内の地域

(4)特定の区域で禁止

 下記の自治体では、ストリップ劇場の営業を特定の区域で禁止している。以下では、各自治体ごとに営業が禁止されている区域を記載する。「特定の区域」に限っての禁止という点をとらえると、(1)~(3)のタイプと比較して禁止区域の範囲が限定されているようにも思われるが、以下を見れば分かるように、実際には、かなり広い区域にわたり営業が禁止されている。

青森県青森市(商業地域(青森市浪岡の商業地域を除く。)を除く。)、弘前市(商業地域を除く。)、八戸市(商業地域を除く。)、黒石市(商業地域を除く。)、五所川原市(商業地域を除く。)、十和田市(商業地域を除く。)、三沢市(商業地域を除く。)、むつ市(商業地域を除く。)、つがる市平川市東津軽郡西津軽郡中津軽郡南津軽郡北津軽郡、上北郡、下北郡及び三戸郡の区域(公安委員会規則で定める温泉観光地を除く。)

群馬県前橋市の区域、高崎市の区域、桐生市の区域、伊勢崎市の区域、太田市の区域、沼田市利根町老神字湯ノ上及び大楊字新平の区域を除く。)の区域、館林市の区域、渋川市伊香保町伊香保の区域を除く。)の区域、藤岡市の区域、富岡市の区域、安中市の区域、みどり市の区域、北群馬郡の区域、多野郡の区域、甘楽郡の区域、吾妻郡(草津町大字草津の区域を除く。)の区域、利根郡みなかみ町湯桧曽、湯原並びに猿ヶ京温泉字宮野及び字町裏の区域を除く。)の区域、佐波郡の区域、邑楽郡の区域

・栃木県:宇都宮市(江野町、池上町のうち、市道3号線と市道3382号線との交差点を起点として、同線を北進し、県道宇都宮那須烏山線との交差点に至り、同交差点から同線を東進し、市道2号線との交差点に至り、同交差点から同線を南進し、市道3号線との交差点に至り、同交差点から同線を西進して起点に至る各路線で囲まれた内側の地域を除く。)、足利市小山市栃木市佐野市鹿沼市、真岡市、大田原市日光市矢板市那須塩原市さくら市那須烏山市下野市、河内郡、芳賀郡下都賀郡塩谷郡及び那須郡の地域

茨城県水戸市天王町のうち一部の番地を除く。)、日立市土浦市(桜町二丁目のうち一部の番地を除く。)、古河市石岡市結城市、竜ケ崎市、下妻市常総市常陸太田市高萩市北茨城市笠間市取手市牛久市つくば市ひたちなか市鹿嶋市潮来市守谷市常陸大宮市那珂市筑西市坂東市稲敷市かすみがうら市桜川市神栖市行方市鉾田市つくばみらい市小美玉市東茨城郡那珂郡久慈郡稲敷郡結城郡猿島郡北相馬郡

新潟県新潟市中央区古町通5番町、同8番町、同9番町、中央区東堀通5番町、同8番町及び同9番町並びに一般国道116号線の敷地境界線からそれぞれ50メートル以内の地域以外の中央区古町通6番町、同7番町、中央区東堀通6番町及び同7番町並びに一般国道7号線の敷地境界線からその敷地境界線以南の50メートル以内の地域、県道新潟停車場線の敷地境界線からそれぞれ50メートル以内の地域及び市道南2―66号線以東の地域以外の中央区東大通1丁目並びに市道小島下所島線の敷地境界線からその敷地境界線以南の50メートル以内の地域及び市道広場附属菱潟線以南の地域以外の中央区弁天1丁目の地域を除く。)の地域、長岡市(坂之上町1丁目及び殿町3丁目の地域を除く。)の地域、上越市の地域、三条市の地域、柏崎市の地域、新発田市の地域、小千谷市の地域、加茂市の地域、十日町市の地域、見附市の地域、村上市の地域、燕市の地域、糸魚川市の地域、妙高市の地域、五泉市の地域、阿賀野市の地域、佐渡市の地域、魚沼市の地域、南魚沼市の地域、胎内市の地域、北蒲原郡の地域、西蒲原郡の地域、南蒲原郡の地域、東蒲原郡の地域、三島郡の地域、南魚沼郡の地域、中魚沼郡の地域、刈羽郡の地域、岩船郡の地域(ただしいずれも、周辺の環境を勘案して公安委員会規則で定める温泉地及び観光地を除く。)

富山県富山市高岡市魚津市氷見市滑川市黒部市宇奈月温泉字桃原、宇奈月温泉字五千僧、宇奈月温泉字大原、宇奈月町音澤字弥太平及び黒部峡谷口の区域を除く。)、砺波市小矢部市南砺市一般国道156号の両側の路端から700メートル以外の利賀村北原、利賀村長崎、利賀村大牧、利賀村下原、利賀村栃原及び利賀村新山の区域を除く。)、射水市中新川郡及び下新川郡の区域

福井県福井市敦賀市小浜市大野市勝山市鯖江市、あわら市越前市の区域のうち、福井県風営法施行条例別表第二が指定する区域

静岡県下田市(1丁目の近隣商業地域及び商業地域並びに蓮台寺字山崎の第1種住居地域、第2種住居地域及び準住居地域(同号の第1種住居地域、第2種住居地域及び準住居地域をいう。)を除く。)、伊豆市修善寺の商業地域、湯ケ島の一部の番地並びに吉奈の一部の番地を除く。)、伊豆の国市(長岡の商業地域を除く。)、伊東市(商業地域を除く。)、熱海市(商業地域を除く。)、三島市沼津市裾野市御殿場市富士市富士宮市静岡市焼津市藤枝市島田市牧之原市御前崎市菊川市掛川市袋井市磐田市浜松市(西区舘山寺町の商業地域及び西区舞阪町弁天島弁天島を除く。)及び湖西市賀茂郡南伊豆町加納字矢熊、字八重ケ瀬及び字森ノ前、同町下賀茂字都殿、字寺井前、字日詰、字谷戸洞、字休石及び字原、東伊豆町奈良本字浜山、字高磯、字温泉ノ上、字小楢坂、字下松葉、字石荒田、字浜田、字一本松、字大久保及び字熱川、同町稲取字下立野、字五十尻、字下小丸山、字西百尻、字池尻、字釜屋及び字下小山尻並びに河津町峰字中里を除く。)、田方郡駿東郡榛原郡及び周智郡

大分県大分市(商業地域を除く。)、別府市(商業地域を除く。)、中津市、日田市、佐伯市臼杵市津久見市竹田市豊後高田市杵築市宇佐市豊後大野市由布市国東市東国東郡速見郡及び玖珠郡

(5)その他

・埼玉県:埼玉県風営法施行条例別表に定める第一種地域、第二種地域、第三種地域及び第五種地域での営業を禁止

・愛知県:愛知県風営法施行条例に定める第一種地域(同2条1号)、第二種地域(同条2号)及び第三種地域(同条3号)での営業を禁止

京都府京都府風営法施行条例別表に定める第一種地域及び第二種地域での営業を禁止

岡山県岡山県風営法施行条例に定める第一種地域(同2条1号)及び第三種地域(同条3号)での営業を禁止

愛媛県愛媛県風営法施行条例別表に定める第一種地域及び第三種地域での営業を禁止